はじめに
みなさんは”コーチング”と聞いてどんなことをイメージされますか?
コーチングは、相手が自分の思うがままに動くようになることではありません。
コーチングとは、相手の可能性を最大限に引き出し、行動を促し、結果を出すためのコミュニケーションスキルです。
コーチングについてまだあまりよく分からないという方やコーチングを現場で実践しているがあまりうまくいっていないという方に向けて、コーチングの代表的なスキルについてご紹介していきます。
本記事では②ペーシングについてお話します。

ペーシングとは
ペーシングとは相手のペースに合わせるということです。日本語では歩調を合わせるという言葉で表されます。また、コーチングにおけるペーシングは言葉を合わせるだけでなく、言葉以外の部分でも相手に合わせることを指します。
ペーシングの目的
ペーシングとは言語、非言語で相手に合わせることです。
このペーシングを身につけることで、相手の信頼(ラポール)を得ることができます。警戒心や不信感を取り除き、親しみやすい存在、大切な存在として受け入れてもらうことができるようになります。仕事上の取引の場や上司部下間、家族間、恋愛関係、初対面の人との会話などシチュエーションを問わず日常生活の中でも生かすことができます。
特に教育現場においては、どうしても先生-生徒との間に明確な上下関係ができてしまいがちです。生徒も無意識のうちに先生に対して壁を感じてしまうことも多く、本音ではなく建前や先生が期待する模範解答のような答えしか言わないことが多いと聞きます。
このペーシングスキルを身につけて生徒からの信頼関係を築いていきましょう。
なぜペーシングが効果的なのか?
心理学では「類似性の法則」といって相手が自分と似たような話し方や身振り手振りをしていると、無意識に親しみの感覚が湧き上がるといわれています。
この「類似性の法則」をコミュニケーションにおいて応用したのがペーシングです。
つまり、相手が自分に対して「この人私と似てるかも」という感覚を無意識にもつことで、あなたに対して親しみや共感性や理解力がアップするということです。
ペーシングの基本的な3つのスキル

ここからは具体的なペーシングのスキルについてご紹介します。
①「表情やしぐさ」のペーシング
まず一つ目は相手の表情やしぐさを合わせるペーシングです。いわゆるミラーリングと呼ばれるものです。
具体的には以下のようなものがあります。
- 表情や視線
- 顔の向き
- 上半身(手の動きや上体の角度)
- 下半身(足を組むなど)
- 呼吸
ここで注意すべきなのは、あくまで自然に行うことです。
ただただ猿まねのように不自然にやってしまうと逆に不信感や嫌悪感を与えてしまうためあくまでさりげなく、ナチュラルに合わせるようにしてください。
また、相手との関係性も重要です。
当たり前ですが、相手が目上の方であるのに相手に合わせて足を組んだり、腕を組んだりするのは失礼にあたり、逆効果になる場合もあるのでご注意ください。
②「声」のペーシング
次に相手の声に関するペーシングです。
- トーン(高い、低い)
- テンポ(早口、ゆっくり)
- ボリューム(大きい、小さい)
- リズム
簡単に言うと、相手が早口な人なのか、ゆっくりな人なのか。声が小さい人なのか大きい人なのか。相手を観察しうまくチューニングする必要があります。
逆のことを考えてみましょう。
もし、あなたが早口な方だとして、相手がゆっくりしゃべる方だとイライラしてきませんか?話の内容よりもその微妙なズレの方に意識が向いてしまったり、不快感を与えてしまう場合があります。
また、例えばこんな場合を想像してみてください。
「先生、聞いて!!東大合格した!!」
→「そうなんだ」
と嬉しさ全開で目をキラキラ輝かせる生徒に対してそっけなく小声で言う先生よりも、
「先生、聞いて!!東大合格した!!」
→「そうなんだ!!!」
と同じようなテンションで嬉しさを表現してくれる先生ならどっちの方がいいでしょう。答えは明白ではないでしょうか。
③「言葉」のペーシング
最後に言葉によるペーシングです。これはバックトラッキングといって、相手の使った言葉をそのまま繰り返し使うスキルのことをいいます。
具体的な例を使って説明すると、
相手「来週からテストなんですけど、今回全然勉強してないからヤバそうなんですよね〜」
あなた「あかんやん」
ではなく、
相手「来週からテストなんですけど、今回全然勉強してないからヤバそうなんですよね〜」
あなた「来週テストやのに勉強してないんか〜、それはヤバそうやなぁ」
というように相手の言葉をそのまま使って話しを進めていくやり方です。
全ての会話でこれをやると不自然ですが、会話のなかにこのバックトラッキングを折り混ぜながら話しを進めることで、相手に「自分のことを受け入れてもらっている」「自分の話しを聞いてもらってる」という感覚を与えることができます。
少し深い話しになりますが、相手の言葉をそのまま繰り返して使うことで、相手に「そうそう」「そうなんです」といった感覚を与えることができます。
これは、
「小さなYesの積み重ね」
といってセールストークや恋愛交渉術でも応用されていますが、「YES」をいくつも繰り返すことで「NO」と言いにくくなるという心理テクニックが含まれています。
例えば意中の相手をデートに誘う場合、
いきなり
「◯◯ちゃん、今週の日曜デートしない?」
というよりも、
「◯◯ちゃん、チーズケーキ好き?(Yes)」
⇨「神戸に超美味しいチーズケーキあるんだけど行きたくない?(Yes)」
⇨「今週末は予定開いてる?(Yes)」
⇨「一緒に行こうよ!」
といったように小さなYesを積み重ねた方が最終的に大きなYesを引き出しやすいというものです。
このように小さな「Yes」を積み重ねることで相手は心を開いてくれるようになります。これをコーチングの中に生かしたのがバックトラッキングです。
相手の心の中を想像しながらこちらの会話を見てみてください。
■通常の会話
相手「今進路のことで悩んでて、、相談してもいいですか?」
あなた「どうしたの?」
ではなく、
■バックトラッキングを応用した会話
※( )内は相手の心の声
相手「今進路のことで悩んでて、、相談してもいいですか?」
あなた「進路で悩んでるんだ(そう)。相談ね(そうそう)、いいよ!どうしたの?」
このように、バックトラッキングを応用することで相手が心の中で「そう」、「そうなんです」と無意識の「Yes」を積み重ねる効果があります。
相手が言った言葉ですから、それを繰り返して使うことで、違和感や抵抗感を感じさせないまま話が進められ、「自分の話を聞いてもらってる」「自分を受け入れてもらってる」と安心感を与えることができ、相手の中に自然と「自分が大切にされている」といった感覚が蓄積され、信頼感を醸成します。
まとめ
コーチングに限らずなんでもそうですが、スキルよりも大切なのは相手への配慮です。
そもそも、「信頼関係を築く」ということは、並大抵のことではありません。
コーチングの際のペーシングのスキルが完璧だったとしても、それ以外のときに言ってることとやってることが一致していなかったり、かたちだけ真似してわざとらしさが出てしまっては意味がありません。
あくまで相手を理解し、相手の視点に立ち、相手がしゃべりやすい状態をつくることや相手との信頼関係をつくることが目的です。
このペーシングスキルを活かして、よりよい関係づくりやパフォーマンス向上を目指していきましょう。